ちょっといい話 モザンビーク産婦人科医の挑戦

midori372010-03-26

本日は午前中で授業が終わりました。パリ出発が夜で時間があったため、所属する国際保健学科の博士課程の学生のDefense(卒業発表)に参加しました。

以前私の研究室の同僚デービッド・ローレンス氏がDefenseをした模様を紹介しましたが、基本的には一緒です。

カロリンスカで博士課程を修了するためには
1.4本の学術論文
2.卒業論文 Kappa(カッパーといいます)の作成
3.そして3時間以上に及ぶディフェンスdefense
を終えることが求められます。

このディフェンスですが、まず外部から研究者、そしてカロリンスカの3名の試験官にて行われます。場所は大学のホールで行われ、一般公開されているため、大勢の学生や関係者が聴講に来ます。


まず、学生が30分かけて研究成果を説明します。その後外部から招へいされた研究者(多くの場合どこかの教授か研究機関の責任者が多いのですが)が1,2時間かけて学生と質疑応答します。次にカロリンスカの試験官が交代で質問を浴びせます。最後にフロアから質問を受け付けます。

正味3時間以上にわたる長丁場で、終わるころには学生はふらふらになっております。

今回のテーマはアフリカのモザンビークにおける婦人科手術のための人材育成です。

モザンビークは1975年ポルトガルの植民地から独立して、多くの内戦や混乱をくぐりぬけながら今日にまで至っております。

ダイヤ鉱山などがありますが、やはり貧しい国で、妊産婦死亡率や新生児死亡率が非常に高いです。

医学部や看護学校もありますが、医師の多くは海外に留学してそのまま帰ってきません。9割近くが戻らないといわれております。この現象はアフリカのみならず多くの低開発国で見られる話でして、頭脳流失Brain Drainageとして大きな問題となっております。

日本の医師、特に若い医師が離島や過疎地に赴任したがらず、地域医療が崩壊すると叫ばれますが、これは世界共通の現象です。

地方で働く若い医師をモザンビークで探すことはほぼ不可能です。そのため政府がとった方針は、看護師から選抜して特別に訓練を受けた新しい専門職に、帝王切開を含む産婦人科手術をさせる制度を始めました。

3年間の研修の後、医師がいない地方の病院に赴任して一般診療や婦人科手術に従事します。

今回の博士課程の学生である産婦人科医は長年この制度に関わってきた方です。
彼の調査によると、この専門職の手術成績は医師とほぼ同じで、なおかつ地方で働くことをいとわない、つまり離職率が低いそうです。

はじめ聞いた時は正直驚いたのですが、結果が伴っているので、なにも批判できません。

このプロジェクトを始めた頃、モザンビークの妊産婦死亡者数は毎年8000人以上だったのが、この制度を始めてから状況が好転し、2009年のデータでは3000人まで減少したそうです。


発表の後は場所を変えてパーティーが行われました。

3+1名の評価者全員が合格を与えました。

彼にとっては感無量だったようです。

発表会には政府関係者やメディアまで来ておりました。
そして今後もカロリンスカ研究所の支援を受けて引き続きこの制度を継続していくそうです。

スウェーデン婦人会の代表も彼の功績をたたえておりました。

医師の横にいるのは政府関係者の代表ですが、幼馴染というか独立運動時代からの同志だそうです。「彼はいつも静かな男だったが、政治運動に左右されずに自分の信じた道をひたすら歩んできた。モザンビークの誇りだ。」と称えておりました。

久しぶりにいい話を聞くことが出来ました。